■1. 読もうと思ったきっかけ
- タイトル買い。昨今のマンション、一軒家の値上がりを見ていて、何が原因でこうなったかを網羅的に知りたいと思った。
■2. 印象に残った内容
- 読み終えた時点での自分のまとめは「マンションが投資用商品に近いものとなり、お金が余っている高所得者が軒並み手を出し始めたのが価格上昇の原因」だった。パワーカップル、海外マネー、タワマンの転売。要するに買い手側の話として理解していた。
- ところがこのまとめをAIに壁打ちしてもらったところ、見事に半分しか見ていないことが露呈した。その過程が一番の収穫だったので、■4にまとめる。
■3. 気になった一文
P.172)ユニクロが衣類を新たに定義し、テスラが自動車を新たに定義したように、オープンハウスも住宅を新たに定義したい。(オープンハウス 鎌田副社長)
- 強い言葉。ただ後から考えると、これは「商品」ではなく「物語」を売る側の言い方でもある。狭小三階建てで都心に手が届く価格を作った実績は本物なので、期待を生む側と供給を効率化する側、両方をやっている人なのだと思う。
P.255)ジェントリフィケーション。都市部の不動産価値が上昇して富裕層を呼ぶようになり、以前から居住していた低所得者が追い出されていく。
- 値上がりは単なる数字の話ではなく、そこに住む人の入れ替えが起きるということ。
P.257)いくら高所得者が集まっても、現場を支える働き手が街にいなくなれば都市機能は低下する。清掃の人手が確保できず稼働率を落とすホテルがあり、近隣からバイトを雇えず閉店した飲食店もある。
- 一番刺さった箇所。値上がりが自分で自分の首を絞める構造になっている。そしてこれは後述するとおり、住宅価格そのものにも跳ね返ってくる。
■4. 読んだ&メモした内容をAIと壁打ちした新たな発見
自分のまとめをそのままAIに渡したら、初手で刺された。
「その説明で説明できるのは都心の新築マンションだけでは? 投資マネーがほぼ入っていない郊外の建売一軒家まで上がっているのはどう説明する?」
確かに、購入理由に自分で「マンションと一軒家の値上がり」と書いておきながら、まとめは需要側の話しかしていなかった。以下、壁打ちで出てきたものを整理する。
① 価格を決めるのは平均の買い手ではなく「最後の1戸を一番高く買える人」
- 「買える人は減っているのに価格は上がる」は矛盾ではない。売り出し100戸に対して買える人が1万人から300人に減っても、その300人が去年より2割多く払えるなら価格は上がる。だから所得の中央値と住宅価格は別々に動く。
- 自分は「みんな(高所得者のみ)が買えるようになった」と書いたのだが、正確には買える人の集合が入れ替わったということだった。
② では、なぜその金余りは「株」ではなく「家」に来たのか
- 金が余っているだけなら株でも債券でも金でもいい。実際、昔の金余りは株に行った。ここを説明できないと「金余りが原因」は半分しか言えていない。
- 選択肢は2つ。1. 実際に有利な資産だから(低金利でレバレッジが効く、賃料が入る、円安で外国人にはバーゲン)。2. 上がると思われているから(上がると思うから買う→実際に上がる→さらに信じる、の自己成就ループ)。
- 見た目は同じ値上がりだが意味は真逆で、1なら金利や為替が変われば止まるだけ、2なら期待が折れた瞬間に崩れる。自分は2寄りだと考えた。テレビのニュースが取り上げ始めた=一般に浸透したので、そろそろ天井ではないかと。
③ 「テレビで報道され始めた=天井」は、方向を当てても時期を当てない
- これも刺された。ビットコインはテレビが騒いでから何倍にもなったし、NISAが茶の間に降りてきてからも日経平均は上がった。1年後かもしれないし5年後かもしれない。
- しかも不動産は株と違って空売りができない。天井を読んでもできることは「買わずに待つ」だけで、読みが3年早ければ3年分の家賃を払いながら値上がりを眺めることになる。予測が当たっても負ける構造になっている。
④ 価格は2階建てになっている。そしてバブルが弾けても家は買えるようにならない
- 仮に期待が折れて上乗せ部分が剥がれたとして、価格は10年前の水準までは戻らない。資材費と職人の人件費で上がった部分は下がらないからだ。
- その証拠が、自分がメモしたP.257だった。清掃も飲食も人を雇えない街で、大工と鳶だけ安く雇えるわけがない。 しかも人手不足は景気ではなく人口の問題なので、不況が来ても解決しない。
- つまり価格は「期待でできた上乗せ(剥がれる)」+「コストでできた床(剥がれない)」の2階建て。ここを分けないと値上がりの正体は見えないし、分けた結果として、バブルが弾けても家は買えるようにならないという結論になる。買えないまま市場だけ冷えて、売りたい人が売れなくなる。タイトルへの一番残酷な答えだと思う。
⑤ 3Dプリンター住宅は「建物」の問題を解くが、「土地」の問題は1ミリも解かない
- 自分の待ちの戦略は、①空き家の増加(世田谷区が特に多い)をリフォームで拾う、②3Dプリンター住宅で大工不足が解消される、の2つだった。3Dプリンターは自分でも触っているので期待している領域でもある。
- まず①と②は互いに矛盾していると指摘された。中古リフォームこそ現場合わせの一点物で、機械化が一番効かない。②で解消したい職人不足の直撃を受けるのが①になる。加えて安い空き家には理由があり、再建築不可の物件は住宅ローンの担保評価がほぼゼロになるので現金で買える人しか買えない。安い物件ほど現金勝負になり、結局この本のオチに戻ってくる。
- ②についてはもっと本質的な反論が来た。3Dプリンターが出せるのは躯体(壁)だけで、これは住宅原価のざっくり3〜4割。基礎、給排水、電気、設備、内装は相変わらず人がやる。大工工程の一部が置き換わるだけで、職人不足の解消は言い過ぎだった。
- そして決定打。仮に建築費が半分になっても、家は安くならない。土地の値段が上がるだけ。 買い手の予算は「土地+建物」の総額で決まっているので、建物が2000万から1000万になれば、浮いた1000万はより良い立地の土地に向かう。買い手全員が同じ行動を取るので土地の入札が切り上がり、総額は変わらない。土地の値段は「買い手が払える総額 − 建物にかかる費用」で決まる(残余地価)ので、技術革新の果実は土地を持っている人が回収する。
- ここまで来て、この本のテーマが腹落ちした。投資商品化も、ジェントリフィケーションも、清掃員が街から追い出される話も、全部「その場所に住む権利の奪い合い」の話で、建物の話ではない。 3Dプリンター住宅が本当に効くのは、土地がタダ同然の場所(過疎地、被災地、途上国)であって、世田谷ではない。
⑥ 「待つ」を戦略にするなら、期限とPlan Bをセットで決める
- 待つのは決めた。ただし期限を切らないとただの先送りになるので、あと5年、子どもが小学校に入るまでと置いた。家は投資であると同時に期限付きの消費でもあって、家族で住みたい家に住める期間は待ってくれない。
- 「相場より安く買う方法は地主と仲良くなることか?」と聞いたら、5年という期限とは相性が最悪だと返された。地主が土地を安く出す動機は人情ではなく税金と相続であり、しかも一番安く出る瞬間(相続発生時)の交渉相手は、土地に思い入れのない相続人であって地主本人ではない。
- 代わりに提示された「安い理由」の分類が良かった。1. 情報が出ていない(未公開・相対取引/プロが先に取るので素人は勝てない)、2. 買い手が限られる(再建築不可、旗竿、共有名義、越境、私道持分なし)、3. 売り手が急いでいる(相続・任意売却/運)、4. 誰も欲しがらない立地。
- 素人が唯一勝てるのは2。2が安いのは欠陥があるからではなく、その欠陥を潰す手間と知識を、みんな払いたくないから。接道が1.8mしかなくて再建築不可なら隣地から0.2m買えば再建築可になる。私道の掘削承諾を巻く、越境の覚書を交わす。調べて詰める力がそのまま価格差になる領域で、要はエンジニアの得意分野だった。地主と飲むより公図と登記簿を読むほうが早い。
- ただし大前提として、素人が勝てるのは「掘り出し物を当てる」ゲームではなく「地雷を踏まない」ゲーム。1割安く買っても、ハザードマップや用途地域や学区で簡単に吹き飛ぶ。期待値は「安く買う」より「間違えない」のほうが圧倒的に大きい。
- そして一番刺さったのがこれ。「5年待つ」を「5年何もしない」にするな。 5年後に相場観ゼロの状態で期限に追われて探し始めるのが、一番高く買うパターンになる。エリアを絞る、成約価格を追い続ける、買わなくていいので内見して目を作る。待機期間は仕込み期間だった。
- 実際、世田谷区周辺と川崎市中原区周辺の土地相場を毎月定点観測する仕組みを、この壁打ちの直後に組んだ。
読書メモを壁打ちに出すと、自分のまとめが「需要側だけ」「建物だけ」を見ていたことが一発で分かる。本の内容そのものより、自分の結論の欠けている側がどこかを教えてもらえるのが壁打ちの価値だと思った。
■5. 知らなかった言葉
- 潤(ルン)(P.87)… より良い暮らしを求めて中国を出ること。中国語のスラング。
- ジェントリフィケーション(P.255)… 都市部の不動産価値が上昇して富裕層が流入し、以前から住んでいた低所得者が追い出されていく現象。
- 残余地価(壁打ちで教わった言葉)… 土地の値段は「買い手が払える総額 − 建物にかかる費用」で決まるという考え方。建築費の低下は地価の上昇に転嫁される。